2026/7/15
自殺は「心の弱さ」の問題ではありません。
心理学的剖検(psychological autopsy)という手法を用いた研究では、自殺者の9割以上になんらかの精神障害が存在していたことが確認されています。
これは印象論ではなく、国内外で確立された研究知見です。
前回、令和7年(2025年)の全国自殺者数が19,188人となり、統計開始以来初めて2万人を下回った一方、小中高生の自殺は538人と過去最多を更新したことをお伝えしました。
【いのちを支える板橋へ】第2回では、この「明るい話」と「深刻な話」の背後にある共通点、精神障害との相関を掘り下げます。
心理学的剖検とは、亡くなった方の遺族や、生前に接触のあった医療関係者への面接調査を通じて、自殺に至る経緯や心理状態を多角的に再構成する研究手法です。
本人に直接話を聞くことができない自殺という現象を、可能な限り客観的に分析するために用いられます。
国立精神・神経医療研究センターの研究班なども、この手法を用いて自殺の原因・背景や介入ポイントの解明に取り組んできました。
これまでの心理学的剖検研究では、自殺者の90%以上になんらかの精神障害が存在し、なかでもうつ病を始めとする気分障害、物質(アルコール・薬物)関連障害、統合失調症などが多いことが知られています。
国内の調査でも、自殺企図者の75%に精神障害があり、その精神障害の約半数がうつ病等であったと分析されています。
厚生労働科学研究の分析でも、多くの自殺は心理的に追い込まれた上に、うつ病等の精神疾患のために正常な判断を行うことができない状態であったと考えられる、とされています。
つまり自殺は、意志の弱さや性格の問題ではなく、多くの場合、うつ病などの精神疾患によって正常な判断力が損なわれた末の結果だということです。
国の自殺対策の指針である自殺総合対策大綱には、自殺は、その多くが追い込まれた末の死である、と明記されています。
背景には精神保健上の問題だけでなく、過労、生活困窮、育児や介護疲れ、いじめや孤立など、さまざまな社会的要因があることも指摘されています。
自殺行動に至った人の直前の心の健康状態を見ると、大多数はさまざまな悩みにより心理的に追い詰められた結果、抑うつ状態やうつ病、アルコール依存症等の精神疾患を発症し、正常な判断ができない状態になっていたことが明らかになっています。
板橋区の資料によれば、自殺の原因・動機別データでも、身体疾患やうつ病などの精神疾患を含む「健康問題」が、他の区分を大きく上回って最も多いとされています。
これは全国データとも一致する傾向です。
令和7年の全国データ(原因・動機特定者、複数計上可)を見ても、健康問題が突出して多くなっています。

うつ病を中心とする精神疾患が、自殺のリスクを大きく高めていることが、全国・板橋区の双方のデータから読み取れます。
私は、精神障がいへの偏見をなくすことこそ、自殺対策の一丁目一番地だと考えています。
「うつ病は甘え」「気の持ちようだ」といった誤解は、いまだに根強く残っています。
しかし心理学的剖検という確立された研究手法が示すのは、自殺の背後にある精神疾患は、誰にでも起こりうる病気だという事実です。
板橋区では「板橋こころといのちの連絡協議会」を通じて、精神保健と自殺対策を一体的に捉える取り組みが進んでいます。
この方向性は正しいと考えますが、次回以降お伝えするとおり、精神疾患への医療的アプローチだけで十分なのか、という論点も残されています。
もし今、心の不調を感じている、あるいは身近な方の様子が気にかかるという場合は、一人で抱え込まず、まず相談してください。
板橋区には「板橋こころと生活の相談窓口」があります。
もちろん、私でよろしければご相談に乗ります。
今回で、連載「いのちを支える板橋へ」前半終了です。
後半3回は、9/10の世界自殺予防デーに接続する形で、9/8, 9/9, 9/10に公開する予定です。
後半もぜひお読みください。
【出典】
– 厚生労働省・警察庁「令和7年中における自殺の状況」https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R08/R7jisatsunojoukyou.pdf
– 厚生労働省「心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/ss7-1.pdf
– 鳥取県「自殺企図者の75%に精神障害」https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/838652/sign.pdf
– 板橋区公式ホームページ「板橋区における自殺の現状」https://www.city.itabashi.tokyo.jp/res/projects/default_project/_page/001/049/676/1206_04genjotorikumi.pdf
– 板橋区公式ホームページ「板橋こころと生活の相談窓口」https://www.city.itabashi.tokyo.jp/kenko/soudan/kokoro/1002494.html
The post 自殺者の9割に「うつ」があった——心理学的剖検が明らかにした事実 first appeared on 中妻じょうた 板橋区議会議員.
この記事をシェアする
ホーム>政党・政治家>中妻 じょうた (ナカツマ ジョウタ)>自殺者の9割に「うつ」があった——心理学的剖検が明らかにした事実