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一般質問は議員個人の発表会ではない―法政大学・土山希美枝教授の講演を聴いて

2026/8/2

法政大学の土山希美枝教授による、地方議会と一般質問をテーマにした講演を聴いた。
私自身、市議会議員として、これまでさまざまなテーマを一般質問で取り上げてきた。市民から寄せられた声、現場で気づいた課題、他の自治体で始まった新しい取り組みなどを調査し、大垣市として何ができるのかを問いかけてきたつもりである。
しかし、今回の講演を聴き、改めて考えさせられた。
そもそも一般質問は、何のために行うのか。
議員が自らの知識や考えを披露するための場なのか。行政の失敗を追及する場なのか。それとも、選挙で約束した政策を主張するための場なのか。
土山教授の話は、一般質問を議員個人の活動としてだけでなく、議会という機関の役割から捉え直すものだった。

◯一般質問は「議員になった理由」に近い活動

議員は、選挙に立候補する際、それぞれの政策や目標を掲げる。
子育て支援を充実させたい。地域経済を活性化したい。災害に強いまちをつくりたい。高齢者や障害のある人が安心して暮らせる地域にしたい。
ところが、議員が必要だと考えている政策を、行政が必ず提案してくるとは限らない。
行政から提案が出てこないからといって、黙って待っているだけでは、選挙で市民に約束したことを実現できない。議員自らが問題を発見し、議会の場で提起する必要がある。
そのための重要な仕組みが一般質問である。
言い換えれば、一般質問は、「自分は何のために議員になったのか」という原点に最も近い活動の一つなのである。
私もこれまで、自治会による排水路清掃、社会保障教育、デジタル回覧板、公共交通、空き家問題など、行政から最初に提案されたわけではない課題を取り上げてきた。
現場で感じた疑問を市政の課題として示し、行政の見解を聞く。それが一般質問の大きな意味であることを、改めて確認することができた。

◯政策には唯一の正解がない

土山教授は、政策には正解がないと繰り返し話された。
例えば、限られた予算を、子育て支援に使うのか、高齢者福祉に使うのか、道路整備に使うのか、防災に使うのか。どれか一つだけが絶対に正しく、ほかが間違っているというものではない。
どの課題を優先するか。どこまで税金を投入するか。誰を対象にするか。どの方法を採用するか。
政策は、さまざまな価値観や利害を踏まえて選択するものである。
正解がないからこそ、議論が必要になる。
そして、いつまでも議論だけを続けるわけにはいかない。自治体として、どこかの時点で決断しなければならない。
その議論と決断を担う機関が議会である。
行政が示す案は、唯一の正解ではない。行政が考えた一つの案である。それを議会が審議し、必要であれば修正し、より良い政策にしていく。
議会が行政案を修正することは、行政の失敗を責めることではない。
議会との議論によって、政策がより良いものになったと考えるべきなのである。

◯「行政は間違わない」という幻想

日本の行政には、長い間、「行政は間違ってはならない」「行政の示した案が正しい」という考え方があったのではないかと、土山教授は指摘された。
行政案が正解であると考えると、議会の役割は、その案を滞りなく可決することになってしまう。
議会が修正すれば、行政の間違いを明らかにしたことになる。一般質問で厳しく追及すれば、行政との関係が悪くなる。そのような意識が積み重なると、議会は行政の提案を認めるだけの「追認機関」になりかねない。
しかし、本来、議会と行政は敵同士ではない。
二元代表制の下で、行政は政策を提案し、執行する。議会はそれを審議し、決定し、執行状況を監査する。
異なる権限を持った二つの機関が、それぞれの立場から自治体の政策を良くしていく。それが地方自治の仕組みである。

◯市民には議会の仕事が見えていない

土山教授の話で、特に耳の痛かった部分がある。
多くの市民から見ると、議会が何をしているのか分からない、という指摘である。
議員定数や議員報酬が議論になると、「議員が多すぎる」「報酬が高い」という意見が出る。
それに対して議会側は、「議員の仕事は多い」「議会には重要な役割がある」と説明する。
しかし、市民からすれば、何をしているのか分からない組織の人数を増やしたり、報酬を上げたりすることには納得しにくい。
問題は、人数や金額だけではない。
議会が存在することによって、どの政策がどう良くなったのか。それが市民に見えていないことが大きな問題なのである。
これは地方議員として、真剣に受け止めなければならない指摘だと感じた。
一般質問を行った。視察に行った。委員会を開いた。それだけを報告しても、議会の価値は十分に伝わらない。
その活動によって、行政の考え方がどう変わったのか。制度や事業がどう改善されたのか。市民の暮らしにどのような変化が生まれたのか。
そこまで示す必要がある。

◯「もったいない一般質問」

講演では、一般質問が十分に機能していない例も紹介された。
ホームページや担当窓口で確認できる数字を、本会議で聞くだけの質問。
個別の市民の困り事を紹介するだけで、その問題が市の制度や政策とどう関係するのかを示していない質問。
他の自治体の先進事例を紹介し、「良い取り組みなので、本市でも実施してください」と求めるだけの質問。
「行政には、もっとしっかり対応していただきたい」と抽象的に求めて終わる質問。
そして、自分の政治信条や問題意識を長く語り、肝心の質問が最後まで出てこない質問。
いずれも、私自身、全く無縁であるとは言い切れない。
特に、良い事例を見つけると、「ぜひ大垣市でも」と提案したくなる。しかし、他の自治体で成功しているからといって、大垣市でも必要であるとは限らない。
まず示すべきなのは、大垣市にどのような課題があるのか、その課題がなぜ行政として対応すべきものなのかという点である。
そのうえで、他自治体の事例が解決手段の一つとして有効であることを説明しなければならない。
「良い事業だからやってほしい」ではなく、「大垣市にとって必要な政策だから検討すべきである」と論証する必要がある。

◯事実、分析、主張を分ける

一般質問をつくる際に重要なのが、事実、分析、主張を分けて考えることだという。
まず、立場や価値観の違う人とも共有できる事実を確認する。
利用者は何人なのか。予算はいくらなのか。計画には何と書かれているのか。過去の議会で行政はどのように答弁したのか。現場では何が起きているのか。
次に、その事実が何を意味するのかを分析する。
同じ数字を見ても、解釈は一つとは限らない。利用者が減っているのは、事業に需要がないからなのか。それとも、周知不足や利用しにくい制度が原因なのか。複数の可能性を検討する必要がある。
そのうえで、議員としての主張を組み立てる。
事業を廃止すべきなのか、見直すべきなのか、対象を広げるべきなのか、まず実態調査や効果検証を行うべきなのか。
根拠が弱いのに、最初から強い結論を押しつけてはいけない。
事実と分析の厚みに合わせて、主張の強さを決める。この基本を大切にしたいと思った。

◯現場は二つある

一般質問に必要な現場には、二つあるという話も印象に残った。
一つは、市民の現場である。
市民は、「この政策の制度設計に問題があります」と専門用語で話してくれるわけではない。
「どうして自分だけ対象にならないのか」「手続きが分かりにくい」「近所で困っている人がいる」といった具体的な言葉で語る。
議員には、その声を丁寧に聞き、個人の困り事の中から、制度上の課題を見つける力が求められる。
もう一つは、行政の現場である。
議員が提案した政策を、実際に実施するのは行政職員である。現場では何が難しいのか。どのような制約があるのか。現在の制度の中で、どこまで対応できるのか。
職員の話も聞かなければ、実現可能な提案にはならない。
市民の現場と行政の現場。その両方を知ったうえで、本会議で問題を提起することが重要である。

◯一般質問は議場で終わらせない

今回の講演で、私が最も大切だと感じたのは、議員個人の一般質問を、議会全体の政策資源にするという考え方である。
一人の議員が良い質問をしても、その場限りで終われば、行政側から「一人の議員の意見です」と受け止められてしまうことがある。
そこで、一般質問で明らかになった課題を、委員会の所管事務調査につなげる。
ほかの議員が別の角度から取り上げる。委員会として現地調査や関係者への聞き取りを行う。そして、最終的には委員会や議会全体として政策提言をまとめる。
こうなれば、一人の議員の問題意識は、議会全体の政策形成へと発展する。
一般質問は、議員個人の活動の終着点ではない。議会として政策を動かすための入口なのである。

◯議会は円満であればよいのか

議会では、意見が対立することを避けようとする傾向がある。
もちろん、議員同士が感情的に対立し、議論が進まない状態は好ましくない。
しかし、政策に唯一の正解がない以上、議員によって考え方が異なるのは当然である。
福祉を優先するのか、産業振興を優先するのか。将来のために投資するのか、現在の負担を抑えるのか。公平性を重視するのか、効果を重視するのか。
こうした違いを隠すのではなく、争点を明らかにして議論することが議会の役割である。
議会に必要なのは、揉めないことではない。
異なる意見をぶつけ合いながら、自分たちの力で議論を収め、自治体としての決断をつくることである。

◯一般質問をさらに磨いていきたい

私は、一般質問を議員活動の中でも特に大切にしている。
一般質問を準備するためには、市民の声を聞き、現場を見て、資料を読み、行政職員から話を聞き、他自治体の事例を調べなければならない。
時間も労力もかかる。
しかし、一般質問を行うこと自体が目的になってはいけない。
何を問題としているのか。その問題が市の政策や制度とどのように関係しているのか。行政とどのような事実認識を共有したいのか。最終的に何を改善したいのか。
これらを、これまで以上に明確にしたい。
また、一般質問の結果を活動報告やブログで市民に伝えるだけでなく、委員会調査や議員間の議論へとつなげる方法も考えていきたい。
土山教授の講演を通じて、一般質問とは単に行政へ質問を投げかける制度ではなく、議会が自治体の政策や制度を良い状態にするための重要な手段であることを再認識した。
議会があるからこそ、大垣市の政策がより良くなった。
市民から、そう評価していただける議会にしなければならない。
そのために、一回一回の一般質問を大切にし、市民の声と現場の事実に基づいた、政策につながる議論を積み重ねていきたい。

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著者

種田 昌克

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